2月20日(土)にシステマジャパンにより主催された
ヴラディミア・ザイコフスキー師のセミナーに参加してきた。
会場は、西新宿の芸能花伝舎の体育館。
システマ大阪の旧北天満小学校体育館のように、廃校になった小学校の体育館を再利用したものらしい。
自分の子供の頃を思い出すような、落ち着いた温かい雰囲気があった。
セミナーはまず、会場内をランニングで周回しながら逆走してくる人達の数を数えたり、
目を閉じて歩きながら周囲の人を感じるワークから始まった。
続いて、一番低い位置まで体を落としたプッシュアップの姿勢を取り、長時間耐えるというワークを行った。
ザイコフスキーにしては意外にもキツ目のフィジカル系のメニューを行うんだなと思ったが、
これもやはり、非常に奥深いインターナルワーク。
苦しい状況の中で、自分の内面の変化や周囲の人達の状態を感じることがポイントだった。
自分の中の何が、低空プッシュアップの姿勢からギブアップさせるのか、
周囲の人達はどれくらい苦しいのか…などを感じることが求められた。
最初の内は、何でこんなキツい地味なワークをやるのかと少々疑問に思ったものだったが、
その後のセミナーの展開により、その深い意味が分かってきた。
例えば、次に行った2人組のワークがなかなか面白かった。
1人は床に寝てベンチプレス状態で腕を真上に挙げ、
もう1人はその手に自分の手を合わせてプッシュアップ状態で体を預ける。
そこから、下の人は上から来る荷重を自分の体に入れずに返すことで相手を崩す。
この段階ではまだ肉体に働きかけるエクスターナルなワークだが、
次の段階では、相手の「中」や「メンタル」に働きかけることで崩すワークに発展していった。
自分は床に寝たザイコフスキーと組んでこのワークをやってもらったが、
ザイコフスキーが下から微妙な具合で自分に働きかけると、
自分の中の重心が崩されるような感もあり、
何となく姿勢をキープしづらい心理状態になって、
「自分の意志で」ザイコフスキーの上から外れてしまう。
この時の心理状態は、前にやった低空プッシュアップの際、
キツい姿勢から「自分の意志で」ギブアップした状況とほぼ同じらしい。
ザイコフスキーは、相手の肉体でなくメンタルに働きかけることで、
この状態を作り出したということだった。
ザイコフスキーによると、今回のセミナーの主要なテーマは、
「自分の中の敵を知る」ことを通じて、
「相手の中」に働きかけるということらしい。
このように書くと、読んでいる方は何のこっちゃ!?と思うかもしれない。
ザイコフスキーも言っていたが、今回のセミナーでやったような繊細な領域は、
非常に言葉では表現しづらい。とにかく、自分で体験して感じてみるしかない。
自分もセミナーのこの時点では、何のことかよく理解できなかったが、
次のワークで次第にザイコフスキーが伝えたいことが何となく分かってきた。
さて、次にやったワークは、
座位でペアを組み、相手の手を捻って倒す、というもの。
最初は相手が無抵抗の状態で始めるから、簡単に倒すことができる。
次に、こちらが手を捻る動きに対し、相手はある程度抵抗する。
すると、肉体に働きかけるだけでは、相手を崩すことが難しくなる。
だから、相手の肉体でなく、メンタルに働きかけることが必要となる。
この辺りで、ザイコフスキーは例え話として、戦車の話をしてくれた。
戦争の時、兵士が頑強な戦車にダメージを与えようとするより、
戦車の中の操縦士を何とかしようとした方が効果的なはず。
それと同じで、相手の肉体でなく、肉体のオーナーである相手自身に働きかけた方がよい。
相手のメンタルに働きかけると、
相手vs自分との戦いでなく、相手自身と「中の敵」の戦いになり、
自分は楽にも安全にもなる・・ということだった。
実際に、肉体的な抵抗をすり抜けるように、
相手の「中」「源」「メンタル」にうまく働きかけられると、
あたかも相手が自ら動いたかのように
崩すことができる。何だか不思議な感覚だった。
ただ、このような繊細なアプローチを行うためには、
まず自分の肉体のオーナーである「自分自身」が
静かで落ち着いたステイトを保つ必要がある。
すぐに結果を求めようとする焦りや、
うまくいかないかも・・という不安や懐疑心があると、まず成功しない。
相手に働きかけるのに良いタイミングや状況が来るまでじっくりと待ち、
確信をもってアプローチすることが大事だとザイコフスキーは語っていた。
このように、今回のセミナーでは、
インターナルワークに関する奥深い概念的な話が多く、非常に参考になった。
自分はザイコフスキーの来日セミナーに何度も参加し、
華麗な達人技に酔わされてきたものだったが、
今回のセミナーでは彼の素晴らしい動きを堪能しただけでなく、
今後の自分の練習の指針となるような数多くのヒントをもらうことができた。
自分はここ数年、インターナルワークを熱心に練習してきたから、
静的な状況ではそれなりに、相手の「中」に働きかけられるようにはなったと思う。
しかし、相手が力づくで来たり、速い攻撃を仕掛けてきたり、
掛け試し的な自由攻防などのプレッシャーがかかる状況では、
インターナルワークがうまく出来なかった。
緊張のせいか、ついついエクスターナルになってしまう。
今回のセミナーでのザイコフスキーの教えは、
この悩みを解決する大きなヒントになるように思われ、
今の自分にピッタリの内容だった。
ザイコフスキーは実際に、どんな人を相手にしても、
落ち着いてその人の「中」にアプローチすることで、簡単にコントロールしてしまう。
彼の心の静けさと、高度に安定したインターナルワークの実力には、大いに感心させられた。
特に、セミナーの終盤で、ザイコフスキーが見せてくれた多人数掛けは圧巻だった。
静かに立っているザイコフスキーに対し、
同時に何人もの参加者がわらわらと寄っていき、つかみ掛かろうとする。
背後からも含めて、あらゆる方向から攻められるから、かなり厳しい状況だといえる。
自分だったら焦ってしまい、ステップを踏んで良い位置取りをしようとしたり、
ストライクを連打して攻め手を吹き飛ばしたくなる状況だった。
ところが、ザイコフスキーは慌てずに、
攻め手の腕や体に静かに手を添えて撫でるだけだったが、
面白いようにあっさりと攻め手の身体が飛ばされてしまう。
漫画のような不思議な光景だった。
この時、自分ももちろんザイコフスキーに絡みに行ったが、
彼の手が自分に触れると、フワッと体が浮かされてしまい、
簡単にコントロールされてしまった。
こちらの肉体的な抵抗をすり抜けて、「源」から崩される感覚だった。
ザイコフスキーはまさに、今回のセミナーで伝えた高度な原理を
厳しい状況の中でも体現していた。
彼の素晴らしい動きを見て、実戦的な状況の中でも
インターナルワークは十分に使えるんだなと確信が持てた。
もちろん、それを実現するためには相当な練習が必要だろうが、
ザイコフスキーから教わった内容をじっくりと復習しながら、
少しずつ身に着けていきたいと思う。
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夜分にコメントを失礼致します。
以前システマの練習をしたことがあるものです。
私は太極拳や意拳や居合等を練習していますが、
ザイコフスキーさんは、「 静かに流れる川は深い 」という諺
を体現出来る人なのだろうと推測します。
日常や仕事において感情をコントロールするのは非常に難しく、ある意味、技や重心をコントロール(体内・外)方が簡単だと思います。
合気道の植柴盛平先生、現在でいえば初見良昭先生などは、
突出したマスター的要素はありますが、誤解を怖れずにいえば
体術の要素が強いと思います。
反対に、上原清吉先生などはザイコフスキーさんに近いかもしれません。
私の未熟な経験から言わせていただくと、ザイコフスキーさんは99%何もしておらず、崩れたり技の結果は相手の精神的重心の変化によるもの、1%でそれに働きかける、または誘導する、またはコントロールしているように感じます。
見当違いなことを言っているかもしれませんが、ブログの内容が興味深く、過去のシステマ経験と、いくつかの武道経験から書かせていただきました。
失礼いたしました。
しずかさん
丁寧な感想をいただき、ありがとうございます。
仰る通り、ザイコフスキーの動きには、他の名人・達人とはかなり違ったものを感じます。
静かで、落ち着いていて、精神性が強く、自分のメンタルに働きかけられている感じです。
今年はザイコフスキーが来日できなくて残念でしたが、
来年以降、また日本に来てセミナーを開催してほしいものだと思いますね。